Story

発酵に、惹かれて

ブルーチーズから始めた理由

湯気の立つ鍋から、できたてのチーズを引き上げる手元

私たちがチーズづくりで最初に選んだのは、ブルーチーズでした。フレッシュなモッツァレラでも、熟成の長いハードチーズでもなく、青かびのチーズから。少し意外に思われるかもしれません。

もともと心を惹かれていたのは、発酵という世界でした。なかでもブルーチーズは、酵母、乳酸菌、そして青かび──三つの生きものの力が、時間をかけてゆっくりと織りなす、唯一無二の発酵食品です。同じようにつくっても、その日の温度や湿度で、表情が変わる。思いどおりにならないところに、かえって惹かれました。

未経験からの出発でしたから、まるで研究室のように。温度を測り、時間を記録し、菌のはたらきをひとつずつ確かめる。試作を重ね、少しずつ「おいしい」に近づけていく。その手探りの時間そのものが、私たちにとっての表現でした。

チーズは、表現方法のひとつ。おいしいと感じてもらえた、その一瞬のために。だれかの心が、ほんの少しほどけるような味を探して。今日も、正解のない手しごとを続けています。